大判例

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東京地方裁判所 事件番号不詳 判決

本籍及住居

東京都杉並区大宮前五丁目二百五十二番地

工場経営 正田十吉

当六十年

本籍及住居

同右

無職 正田のぶ

当五十四年

本籍及住居

東京都杉並区大宮前五丁目二百三十九番地

会社員 鈴木敬彌

当三十八年

右の者等に対する労働組合法違反被告事件に付当裁判所は検事橋詰利男立会の上審理をして次の通り判決する。

主文

被告人正田十吉を禁錮三月に処する。

但しこの判決確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。

被告人正田のぶ、同鈴木敬彌を各罰金五百円に処する。

各罰金を納めることが出来ないときは金百円を一日に換算した期間その被告人を労役場に留置する。

理由

被告人正田十吉は昭和八年十二月三日東京都武蔵野市三鷹町上連雀九百九十七番地に正田飛行機製作所を設立し、爾来航空機用モーターその他を製造し戦時中には約二千名の工員を擁する工場となつたが、終戦直後一旦之を解散し昭和二十年十月一日約四百名の従業員を再採用し、昭和二十一年十一月十一日工場名を正田製作所と改称、蒸釜、バリカン等の製造をして来た者、被告人正田のぶは十吉の妻で同工場の経営につき夫を扶けて来た者で、被告人鈴木敬彌は十吉の長女を妻とする者で、昭和二十二年六月二十日以来右工場経営に関し米国人チヤーレス・ドレーヤーの祕書として行動して来た者であるが、

正田製作所に於ては昭和二十一年二月一日数名の幹部職員を除く二百七十七名の従業員が日本労働組合総同盟関東金属労働組合正田製作所支部という労働組合を組織し、爾来使用者側に対し自分等の待遇改善等の問題に関して要求を重ね被告人正田十吉は概ね之を承諾して来たが、同人は同年七月十七日経営難を理由に一方的に工場閉鎖全員解雇を宣言した為組合員側の反対にあい争議となり、組合側は生産管理を行つた。然し同年十一月一日東京都地方労働委員会の勧告に基き右争議は一応解決した。其の際協定事項として労資双方の協力に基く特別経営協議会を設け従業員の完全雇傭と製作所の合理的経営を目的とする第二会社を設立することとなり、爾来三次に亘り特別経営協議会を開いて協議したが労資双方の意見の一致を見ず、

旁々被告人等は予てから右労働組合結成以来の従業員の態度に不満を感じ、右昭和二十一年十一月の争議解決後も工場は事実上組合の生産管理状態にあつて、使用者側の意思が容れられず経営権は殆ど組合にあるに等しかつたが、それは主として組合幹部の策動に依るものと判断し、同人等に対し特に嫌悪の情を持つていたところ

昭和二十二年三月頃、片桐太一の仲介に依り、米国人チヤールス・ドレーヤーを知るに及び、此の際使用者として組合幹部の活動を抑え使用者独自の経営権を確立する為には、ドレーヤーの連合国人としての特殊の地位を利用し一旦形式上同人に工場の経営権を讓渡し実質的には正田側で其の支配権を握り、経営者変更を機会に組合幹部を一掃するに如くはないと考えドレーヤーに経営権を讓渡する交渉を進めて来たが、

同年五月十九日突然被告人正田十吉は前記工場内協議会席上で組合幹部に対し、ドレーヤーに同工場の経営権を讓渡することを決意した旨発表し、次いで五月二十九日同工場内で開かれた第四囘特別経営協議会の席上ドレーヤーに対し正式に経営権を讓渡した旨を宣言し、同人を経営者として正式に組合幹部に紹介し、組合側の暫時猶予され度い旨の申出をきかず、懸案の従業員の賃銀値上げ問題は新経営者に委ねたとして協議会を流会せしめ、

翌三十日ドレーヤーは工場内に新経営者として「当製作所に於て破壊行為、窃盗行為、生産阻害行為、その他の非行為を為す者は連合軍の占領目的に反する者として連合軍に依る軍事裁判及日本の裁判に於てその責任を問わるべし」という告示を掲げ、組合員に対しストライキ等の争議行為も連合軍々事裁判所に於て処罰せられるのではないかという心理的動揺を与えたが、組合員は直ちにはドレーヤーえの経営の讓渡を認めず、爾来被告人正田十吉及ドレーヤーに対し懸案の解決方を交渉中、

同年六月二十日前後に至り被告人等三名は事件の有利な解決をはかる為、杉並区大宮前五丁目二百五十二番地被告人正田十吉方に於てドレーヤー等と協議の結果、事件の解決方針として組合幹部との直接交渉を避け、組合員各自と個別的折衝により新経営者ドレーヤーの下に従業員として止まる者と然らざる者とを選別する為、ドレーヤー経営のユナイテツド製作所(正田製作所を改称したもの)えの入所につき新たに同意書を取ることにしたが、此の場合、組合幹部である最高統制委員十名の拒否妨害は当然之を予想し得たので、この機会に抜本的に右十名を退職せしめるべきであると考え、六月二十二日被告人鈴木敬彌は右工場に於て同意書三百枚、肩書自宅で退職願十枚を作成して準備し、六月二十四日ドレーヤー保護の為として招致された米国憲兵四名CIO二世の役員二名監視の下にドレーヤーは同工場に臨み、個別的折衝の前提として従業員全員の集合を命じたところ組合幹部たる加藤丈夫外八名は右同意書の印刷等から被告人等が個別的折衝を企てているのを察知していて、組合としては斯る事は団体交渉権を侵害するもので全面的反対を為すべきであるとして之に反対し、従業員の集合を阻止した為ドレーヤーは直に右正田方の協議決定に基き組合幹部たる加藤丈夫、星野貞夫、磯村文夫、石崎唯雄、斎藤重治、斎藤徳次、内海享、水沼工衛(以上は何れも組合の最高統制委員)及稲村明喜(最高統制委員長)の九名に対し即時同工場で解雇を申渡し、予て用意していた退職願に捺印を求めて退去を命じ、以て右九名が組合の団体交渉権を確保せんとして全員集合を阻止したという組合員の正当な行為を為したという理由で解雇した。(証拠説明省略)

法律の適用 被告人等の判示所為は労働組合法第十一条第一項、第三十三条第一項、刑法第六十条に該当するから被告人正田十吉に付いてはその所定刑中禁錮刑を選択し、その所定刑期範囲内で同被告人を禁錮三月に処し、犯情刑の執行を猶予するのを相当と認めるので刑法第二十五条に則りこの判決確定の日から二年間右刑の執行を猶予し、他の被告人両名については罰金刑を選択し、その所定金額範囲内で同被告人両名を各罰金五百円に処し、右罰金不完納の場合は刑法第十八条に則り金百円を一日に換算した期間その被告人を労役場に留置することとし主文の通り判決する。

(判事 鉅鹿義明)

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